大河内 敦の裏blog

広告会社に勤める一級建築士のPC自作日記

スピーカーの置き方(その3)         二度目のオーケストラの生音を聴いて。 

別に昔からクラシックを聴く趣味があったわけでは無いのだが、オーディオのチューンナップを始めてから、オーケストラの生音を聴くことに興味がわき、今絶好調の指揮者 佐渡裕さん指揮のケルン放送交響楽団による「運命」「未完成」を聴きに行った。場所は、音に定評がある中之島フェスティバルホールである。

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クラシックのことは人に話せるほど知識や経験があるわけでは無いのだが、初めて見る佐渡さんのは、大きな身体で、キビキビ、さっそうとしており、彼が指揮する交響楽団の演奏もエネルギッシュな印象だった。実際、彼の指揮は演奏時間が短くなる傾向にある、と、ロビーでお客さんがしていた。ちなみに、今回のコンサートで、「運命」の出だしは休符であることを初めて知った。 ~ 佐渡さんが大きく腕を振り下ろした瞬間が無音だったから。グイグイ迫ってくるエネルギッシュな演奏、弦楽器や金管楽器の大音響に隠れているが意外と重要な役割を与えられているクラリネット、第三楽章と第四楽章が続きもの・・・などなど、聴き慣れているはずの楽曲ではあるが、新たな気づきが多々あった。

で、楽曲ではなく、生音の方の話。

前回、大阪フィルで初めてフルオーケストラの生音を聴いたときは、その響きに圧倒され、またその一方で自分の中で整理が付かない印象もあり、それに気を取られてあまり感じなかったのだが、今回気がついたことがあった。それは、「オーケストラの音は意外と小さい」と言うことだ。 ~ これは考えてみたら当然で、大編成のオーケストラであろうと、音は距離の2乗で減衰する。私は二回最前列の席であったが、ステージセンターからは優に30m以上の距離があるわけで、1mの距離で聴いたのと比べると、少なくとも直接音は1/900以下に減衰している。そこに、反射音やホールの共鳴で、実際には更に複雑な音の届き方をしている。音源からの距離は壁に当たり反射する分、さらに遠くなる、その一方、周辺に壁があるから、音エネルギーは拡散せずに反射する分も上乗せされて耳に届くと言うことがある。(ちょうど、水道管の様なパイプに向かって声を出すと、響きながらも遠くに届く、と言うのに似ている。)逆にそれだけ減衰しても、反射音や共鳴と言った音要素が組み合わさり、チャンと鑑賞、解釈、批評を可能にする音環境が提供されていることに改めて驚く。

ここ数回、Blogでスピーカと壁との距離といった話から、各部屋に合わせたルームチューニングをどう考えるべきか、と言う話をさせてもらった。で、30m離れた音でも立派に、いや、それ以上に、約3000名の座席一つひとつに音を届け、お客様からお金が取れるホールというのは、究極のルームチューニングを施さなければならない空間と言える。当然、音のいい席、それほどで無い席という違いはあるものの、最後部の座席に至っては、直接音は1/2000程度にまで減衰するだろう。それを反射音と共鳴で補完して、ホール音響は成り立つ・・・と、ここまで考えると、3000名の座席一つひとつに聞こえる別々の音の種類があるという考えが成り立つ。それらは、全て一つの音源から出されているにも関わらず、である。環境によって音が変化する。しかし、ウソの音というのでは無い。3000席のお客様それぞれにとっての「生音」なのだ。実際、コンサートホールだと、小さなトライアングルの音まで聞こえる。私のステレオは、最近まで、トライアングルの音を聴き分けられる代物では無かった。ルームチューニングの要諦は、「正しい音」「ウソの音」という範疇で考えられるべきで無く、この、出来るだけ数多くの音が明瞭に聴きわけられる環境作りにある、と、改めて考えた。