音も聞いてるし、音楽も聴いている。
映画のタイトルは、‟BILL EVANCE TIME REMEMBERED″ ~ タイトルが表している通り、51才で夭折しながらも依然その完璧なメロディと演奏で存在感を保ち続けている天才作曲家・ピアニストの一生を多くのインタビューや記録映像で構成したドキュメンタリーだ。
ピアノに覆いかぶさるように演奏をするビルの姿を映像で見ていると、鍵盤を弾く彼の指のタッチがいかに繊細で注意深いものかがリアルに感じられ、その緊張感と美しい旋律に引き込まれる。また映画の中で、曲が出来た背景が語られると、楽曲に対する理解やイメージが高まる。ビルの置かれた状況に思いを馳せながら美しい旋律に耳を傾けると、より楽曲に込められたメッセージがリアルに感じられた。~ 私は今、「音楽を聴いている」と、思う。
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映画を観終わって、オーディオショップの試聴会に向かった。
ちなみに今日聴くオーディオセットは、スピーカーがペアで約800万円、
CDトランスポーターが350万円。それに接続されたDACは、何と左右のチャンネルごとに別々に組まれており、これもペアで350万円。
更にモノラルアンプ二台で左右のチャンネルを受け持つ。これもペアで600万円。
この他に当然プリ・アンプやミュージックPCがセットアップされており、それらを含めると優に2,000万円オーバー。このセットが反射板や吸音材でチューンナップされたリスニングルームで鳴らされる。
余裕のパワフル・オーディオセットをあえて抑え目な音量に設定して、ホリー・コール・トリオのシンプルだけどいい録音のジャズのソフトを聴く。 ~ 艶やかな音色。
お客様の中に目が不自由な方が居られ、その方がテネシーワルツ前奏のハーモニカが鳴ると、私の後ろの席で「ため息が出るな~」と囁いた。
試聴会なので同じソフトをSACD、MQA、更に周波数を変えてアップ・サンプリング、アップ・コンバートしたり、最後はDSDまで色々なフォーマットや規格で鳴らして音を聴き比べるのだが、やはりこの方は聴覚が鋭いのか、私の耳では気が付かない聴き取りが出来ている様子。だが、決して眉間にしわを寄せる様な聴き方をしている訳ではなく、極めて気さくにニコニコといい音で音楽を楽しんでらっしゃる。美しい音色で音楽を楽しむ ~ この方はいい音を詳細に聴き分けながら、音楽のハートも感じておられる。その意味では「音も聞いているし、音楽も聴いている」のだ。
レベルの高い再生音を追求することで、例えばビル・エヴァンスの細やかなタッチの再現に近づくことが可能になる。そして、その繊細な音楽表現がよりリアルに感じられる。その意味では、自分が聴いているのが音か音楽かという区分はあまり意味が無いかな、と、考え直した。
2,000万円オーバーのオーディオセットを堪能した後、家でも同じホリー・コール・トリオのテネシー・ワルツを聴いてみた。結構いい感じ。
~ そういえば、初めて我が家でMUTECを導入した際、楽器を繰るミュージシャンの指捌きが感じられて、感動したのを思い出す。今日一日の結果、改めて自分のオーディオ・セットもなかなかのものだなと思える様になった。